智也は息を切らしながら、全力でアベニューを走っていた。
足を止めることなく、時計を見る。
デジタル時計が示す時刻に、智也は顔を引きつらせた。
───やばい、完全に遅刻だ!
焦る気持ちを力に変えて、走るスピードを上げた。
遊園地の入口に着くと、予想どおりの表情を浮かべているかおるが立っていた。
「遅いぞ、智也」
頬を膨らませながら文句を言う。
「すまん、つい2度寝してしまって・・・」
「えっと、25分の遅刻だから、1分につき200円として、全部で5000円のペナルティね」
「おいおい、勘弁してくれよ。いくらなんでも高すぎるぞ」
「フフフ、冗談よ。一生懸命ここに駆けつけてくれたみたいだから、今日は大目に見てあげるわ」
かおるが小さく笑った。
「すまん、恩に着るよ」
「もういいわよ。それより、早く中に入りましょ」
「ああ」
ふたりは並んで入口のゲートをくぐった。
「さてと、今日は絶叫マシーンの完全制覇でいこうかな・・・」
「え、それって6種類全部に乗るってことか!?」
「もちろん。最初は新しく出来た『メガロゾーンコースター』からね」
かおるはさらりと答えた。
───確かここの絶叫マシーンって、どれもすごいものばかりだったよな・・・
智也は自分の体力と気力が持ちこたえられるかどうか不安になった。
「ほら、早く行こう、智也」
かおるは智也の不安など意に介せず、手を引っ張って歩き出した。
新登場の「メガロゾーンコースター」は、智也が想像していた以上に、激しいアトラクションだった。
圧倒的なまでのスピード、遠心力、加速度に智也は完全に参ってしまった。
しかし、かおるのほうは平然としていた。
「さあて、次は何に乗ろうかなあ」
「ち、ちょっと待ってくれ、少し休ませてくれ・・・」
次の乗り物を探すかおるに対し、たまらず声を掛けた。
「えー、まさかあれぐらいでへばったの?」
「あれはある意味殺人マシーンだぞ。かおるはよく平気でいられるな」
智也はたまらず近くにあったベンチに座り込んだ。
「んもうっ、しょうがないなあ」
かおるもその隣に腰掛けた。
「ね、智也。智也は私と一緒にいて楽しい?」
「どうしたんだよ、急に」
「いいから教えて」
かおるは真面目な顔をしながら言った。
「楽しいに決まっているだろ」
智也の答えにかおるは屈託のない笑顔を浮かべた。
「よかった。私もね、智也といるととても楽しいよ。もし、私だけが楽しかったらどうしようかと思ったけど、それを聞いてほっとしちゃった」
智也がいるから笑顔でいられる。
偽りではなく、本当の笑顔で・・・
───こうして、ずっと笑っていられるようにしていきたい。
それは決して無理なことではないと感じた。
今ならきっと叶えられると・・・
「智也、今度は違う乗り物にしよっか」
かおるは智也を気遣って声を掛けた。
「いや、俺ならもう大丈夫だ」
智也は勢いよく立ち上がった。
「そのわりには足取りがおぼつかないけど」
「ちょっと立ちくらみしただけだ。心配ない」
虚勢は張って見せる。
「無理しなくてもいいよ」
「本当に大丈夫だ」
「もう、意地っ張りなんだから」
かおるは思わず苦笑いを浮かべた。
「それじゃ、とことん付き合ってもらうわよ」
「おう、付き合ってやるぜ」
「ありがと、智也」
かおるが智也の腕に自分の腕を絡めた。
「せっかくのデートだから、まわりのひとに恋人同士だってアピールしないとね」
かおるはウインクをして、微笑んだ。
───これからもずっと一緒にいようね!
かおるは心のなかでつぶやいた。